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東京高等裁判所 昭和55年(け)17号 決定

本籍

長野県松本市大字島内二、三〇九番地イ号

住居

埼玉県朝霞市岡一、一〇〇番地の七

請求人

中屋末人

右の者に対する刑事補償請求事件について、昭和五五年三月三一日当裁判所がした請求棄却決定に対し、請求人代理人弁護士伊達秋雄外二名から異議の申立があつたが、当裁判所は、異議を理由があるものと認め、刑訴法四二八条二項三項、四二三条二項前段により、次のとおり決定を更正する。

主文

請求人に対し金一三万一二〇〇円を交付する。

理由

本件請求の趣旨及び理由は、代理人伊達秋雄、同佐藤博史、同山嵜進が連名で提出した刑事補償請求書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

本件記録によれば、

一、請求人は、昭和五一年一一月九日「被告人は、治安を妨げ、かつ、人の身体・財産を害しようとする目的をもつて、昭和四七年九月中旬ころから昭和五一年一〇月一八日までの間、宝塚市清荒神中国縦貫米谷トンネル工事現場、大阪府池田市石橋二丁目三番二号石橋相生荘間島正志方、東京都板橋区徳丸三丁目二四番四号立山荘田口彰方、同都中野区若宮二丁目二〇番一〇号文月荘の自室及び同都板橋区徳丸二丁目七番一二号の自宅において、爆発物であるダイナマイト四本を所持したものである。」との公訴事実(爆発物取締罰則・同罰則三条、火薬類取締法違法・同法五九条二号、二一条)で東京地方裁判所に起訴されたこと、

二、同裁判所は、昭和五三年二月二八日、被告人は、昭和四七年一〇月下旬ころから昭和五一年一〇月一八日までの間右公訴事実記載の場所において爆発物であるダイナマイト四本を所持した者であるが、その所持の目的が、治安を妨げ、人の身体財産を害するためでないことを証明することができないものであるとの事実(爆発物取締罰則六条該当)を認定したうえ、被告人は火薬類取締法違反の点については無罪であるが、同罰則三条の罪と想像的競合の関係にあるものとして起訴され、同条の罪と公訴事実において同一性のある同罰則六条の罪について有罪の言渡をするのであるから、主文では無罪の言渡をしない、旨を判示して、被告人に対し、懲役一年六月、未決通算一八〇日、執行猶予三年の判決を言い渡したこと、

三、請求人は、右判決を不服として控訴を申し立てたところ、当裁判所は、昭和五四年一二月一三日、原判決を破棄し、被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和四七年一〇月下旬ころから昭和五一年一〇月一八日までの間前記公訴事実記載の場所において爆発物であるダイナマイト四本を所持したものである、との事実(火薬類取締法五九条二号、二一条該当)を認定したうえ、被告人に対する本件公訴事実中の爆発物取締罰則六条該当の点については犯罪の証明がないが、同罰則六条該当の訴因を内包する同罰則三条該当の事実は、判示火薬類取締法違反の事実と科刑上一罪の関係にあるものとして起訴されたものと解されるから、特に主文において無罪の言渡をしない、と判示して、被告人に対し、懲役七月、原審未決の通算一八〇日、執行猶予二年の判決を言い渡して、同判決は昭和五四年一二月二七日確定したこと、

四、請求人は、右事件に関し、昭和五一年一〇月一八日逮捕され、同月二一日から昭和五二年五月一七日まで勾留されたが、右拘禁の罪名は爆発物取締罰則違反だけであつたこと、

以上の事実が認められる。

ところで、請求人が本件について抑留及び拘禁された日数(二一二日)のうち、未決勾留日数として本刑に算入された部分(一八〇日)については、仮に刑の執行猶予が取り消された場合、刑の執行と同一視され、刑事補償の対象とはならない(最高裁判所昭和三四年一〇月二九日決定・刑集一三巻一一号三〇七六頁参照)ものであることなどをも勘案したうえ、刑事補償法三条二号により、これを補償しないのが相当であると考える。

そこで、残余の全日数、すなわち三二日につき、諸般の事情を考慮し、昭和五五年法律第四二号刑事補償法の一部を改正する法律附則二号により、同法による改正前の刑事補償法四条一項所定の補償金額の最高限度である、一日四一〇〇円の割合による補償金を交付するのが相当であると認め、同法一六条前段により、主文のとおり決定する。

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